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東京高等裁判所 昭和31年(う)1705号 判決 1957年4月30日

控訴人 被告人 田所善祐

弁護人 荒井秀夫

検察官 近藤忠雄

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年六月に処する。

原審の未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

理由

被告人および弁護人荒井秀夫の各控訴趣意は、本判決末尾添付にかかる被告人名義の罪状及情状上申書および右弁護人名義の控訴趣意書に各記載のとおりであるから、これらについて判断する。

一、弁護人荒井秀夫の控訴趣意第二点について

原判決が原判示各詐欺事実の証拠として所論の日時になされた被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書ならびに原審公廷における供述を引用していることは所論のとおりである。然し、刑事訴訟法第三一九条第一項に「任意になされたものでない疑のある自白」とは、要するに、外部より強要された結果供述した疑のある自白を指すものに外ならない。所論の如く供述者自ら服毒等のあつた後で未だ疲労苦痛の残存する場合の供述等は、主観的に若干不如意を感ずるときの供述であり従つてその供述は存分の気力を注ぎ得ないため証拠としての証明力に不十分の点あることは考え得られないではないが、それは前述の如き外部よりの強制に因る供述たる自白の証拠能力の欠缺とは別個の問題である。而して所論の被告人の各供述調書については、記録を査閲しても特に外部よりの強制的圧力を加えられた結果なされた供述たる自白と認めるべき事跡は到底見出し得ない。従つて、これらの供述調書を採つて本件各詐欺事実の証拠に供した点において原審訴訟上所論のような違法の疑あるものではない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

弁護人荒井秀夫の控訴趣意

第二点判決に影響を及ぼすべき法令(手続)違背

1、前述の様に原審は被告人に詐欺の犯意を認定したが、被告人の犯意の認定は被告人の供述又は供述調書の記載に俟つところ多きことは一般的なことであり、本伴に於ても右原判決の認定する各事実の認定の証拠として(1) 昭和三十一年二月十四日附及同二十六日附の被告人の司法警察員の供述調書及被告人の(同月二十六日附及同月二十九日附の各)検察官に対する供述調書が挙示されている。(2) 然し乍ら右各証拠は被告人が、前記第一点の、「証拠の取調を請求できなかつた理由の疏明」の項に一言した如く、殆ど心神耗弱状態に於て取調べを受けたものであり、取調の苦痛のあまり捜査当局の云われる侭に供述したものであつてその自白の部分については任意性がないといいうるのである。故に刑事訴訟法第三百十九条に違背し、右違背は、詐欺罪という欺罔の犯意の認定上被告人の自白がその証拠中重要性を有する場合たる本件に於て(殊に結婚詐欺なる態容に於て然り)は判決に影響を及ぼすこと明らかであると思料されるところである。(判示第一及第二の事実につき共通)

2、又原審は被告人の公判廷に於ける供述をも証拠としているが被告人は、未だ以て(現在も)頭痛耳鳴、手のしびれ等の症状が消滅していない位であり、前記公判当時(検察庁に於ける取調直後)は勿論充分なる意識を以て自白を為したのではなく前記の如く弁論をし又弁解する等の意欲もない程苦痛の中にあつて審理を受けたのであるから、右1と同様右自白を証拠とすることは刑事訴訟法第三百十九条に違背するものである。右自白が判決に影響を及ぼすことは右1の(2) に述べたと同じく明らかなるところである。(判示第一及第二の事実につき共通)

(その他の控訴趣意は省略する。)

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